前編のまとめ
医療機関への入院時、多くの場合身元保証人を求められていた日本ですが、単身世帯が増加し、2018年に厚生労働省が「身元保証人がいないという理由で入院を拒んではならない」という通達※1を出しました。
※1 厚労省 2018年
「身元保証人等がいないことのみを理由に医療機関において入院を拒否することについて」
それから5年たった2023年、身寄りのない人々を支援するやどかりサポート鹿児島では、まだ入院時の身元保証が問題になっています。
身寄りがない人が医療を受ける時どのようなことが問題になっているのか、
入院時身元保証はどうなっているのか?
僕自身は通院や治療後のケアも問題や課題があると思いますが、1番の問題は入院時の身元保証が必要とされる状況だと思います。
個人的には大いに問題があると感じています。
身寄りのない人が入院する場合、病院とは一体どのようなやり取りになっているのでしょう?
Dさんによれば、通院の時は保証人は基本必要ないように見えるが、手術や入院時は身元保証人が必要とされる場合がほとんどのことです。
病院にもよりますが、医療機関に付き添い、入院の話になった時、「この人は身寄りがいないんです」と伝えても、「決まりですので、皆さんにお願いしてます」と堂々巡りになることもあるそうです。
身寄りのない人に保証人を求められてもどうしようもないですよね。
ですから病院と多少言い合いになってしまったこともあります。
でも、付き添いの患者さんが僕と病院が言い合っている傍で恐怖で顔が強張ってしまっていたんですね。誰でもこれから入院する病院と、入院中世話をする人間が対立しているのは不安だと思います。
それを見て自分が保証人になることに決めました。
身元保証人を用意するのが入院の条件だったので、Dさん自身が身元引受人になられたのですね…(T_T)
2018年の厚労省の調査では「身元保証人のいない人は入院を認めない」と答えた病院は8.2%あったけど、今後もこの調子だと身元保証人がいないせいで亡くなる方が出そうで恐ろしいです…
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Dさんは「病院側の言いたい事も全くわからない訳ではない」と言います。
身寄りのない人向けの社会資源が整っていない日本では、身寄りのない人の治療は、標準コースである「身寄りのある人」と比較すると手間や不明な点が存在します。
でも、手術や入院が必要という事は、軽い怪我や病気ではない状態です。もしも「保証人は決まりですので、皆さんにお願いしています」と言われてしまうと、身寄りのない方は必要な医療を受けられなくなってしまいます。
Dさんの周りには児童養護施設で育った友人や、身寄りのない方も多くいるそうです。
その人たちが「身寄りがない」と言う本人にはどうにもできない理由で、必要な時に医療を受けられないのは、とても恐ろしい事ではないか?とDさんは感じられたそうです
今後更に増加していく身寄りのない人を支援するシステムをどう構築していくか?
Dさんには入院・通院支援をとても積極的にしていただいています。その経験から、とてもシビアなことを伺います。
身寄りなしの方が高齢者になった場合、今以上に入院・通院支援が必要となることが予想されます。
身寄りのない人々を支援しているやどかりでも、このケースは増加していくでしょう。
その際、とてもDさん一人でご対応できるような状況ではなくなってくると思うのですが、これらの支援をご自身以外の方にも広めていくためには何が必要だと思いますか?
身寄りのない方が陥っている苦境を理解して下さる方は広がると思いますが、実際に支援活動に参加する方を増やすとなると、難しい問題だと感じています。
単身世帯が増加していく日本で、身寄りが無くなってしまった人たちをどのように支えていけばよいのか?手伝って下さる人々をどのように増やしていけばいいのか…
今後の日本は身寄りのない人が増えていくと予想される一方、「困難な状況に陥ったのは自己責任」という考え方も社会には根強く存在しています。
現在、支援に積極的に関わって下さっているDさん自身も、やどかりに来る前はこういう困難について「自己責任」と考えていたそうですが、鹿児島で活動している互助の会や、やどかり利用者の先輩が支援活動をしているのを見てから、考え方が変わったそうです。
Dさんは現在は「身寄りのない人々の陥っている困難に対する支援活動に共感をしてくださる方は少なくはないので、これからも情報発信や活動の説明は必要」と考えているとのことです。
一方で、「身寄りのない方が直面する問題の理解が広がり始めても、実際に支援して下さる方を増やすとなると難しい」とDさんは言います。
その理由としてDさんは第一に活動の負荷をあげていました。
通院の支援や入院の支援は、感謝してもらえる事も多いけれど、人の命に関わる重大な局面も多々あります。
具体的に言えば、癌やコロナを患った人を、その人が亡くなるまで支援することもあるのです。
重大な活動である分、重荷に感じて参加を躊躇する方が多いとのことでした。
第二に、活動を広げるには金銭的な問題があります。
この支援活動は基本、“ボランティア”という位置づけが一般的です。困っている方を無償で支援して下さる方がいれば素晴らしい事だし、そうなれば理想です。
でも、このご時世に時間とお金に余裕のある方がどれだけいるでしょう?残念ながらこの社会の多くの方は、日々の生活や、自分自身の事、そして家族の事で手いっぱいで、そこまで余裕はないと思います。
支援にはどうしても時間や日数がかかり、時にはお金もかかります。公共交通機関で移動すれば交通費、時間が長くなれば飲食代、お見舞いに行くにも何か差し入れをしたい時もあるでしょう。
どこまで支援するかにも寄りますが、支援をする側に費用(手出し)が必要であれば、活動を広げていく際に障壁となってしまいます。
逆に、心理的負担・時間的余裕・費用面の3つを解決出来れば、参加してくださる方が少しずつでも増えるのではないか?とDさんが仰っていたのが印象的でした。
人とつながりあうことで、自分自身を助けられる
身寄りのない人々は増加しているのに、なかなか時代や制度が追いついていないと感じます。
問題に対処するために、個人のレベルでできそうなことはあるのでしょうか?
色々と現状や思う事を述べさせていただきましたが、最後にやはり人と人とのつながりだと思います。
Dさんは、「身寄りが誰もいなくても、友達は作れる。友達がいれば助けあうこともできる」と考えているそうです。
そして、友達同士で助けあうことができれば、この記事で書いたような困難なことは、ほとんどは解決できるのではないか?と考えているとのことでした。
今の日本では、通院の付き添いだったり、入院時の身元保証は家族機能が担っています。しかしその部分を、友達同士で助けあうようになれれば、知りあい、友達、仲間、親友、1人でも2人でも呼び方は何でもいいので困った時に困ったと、助けあえる方がいれば、やどかりがしているような支援活動も少なくなっていくのではではないか?とのことでした。
Dさん、長時間にインタビューに答えていただき、本当にありがとうございました!!
m(__)m
おわりに
まだまだ「家族」の存在が期待される場面が多い日本。しかし単身世帯率は今や38%で、身寄りのない方が激増する状況で、家族の存在をベースにした制度設計は現状に合わないと思います。
日本政府も、医療機関が身寄りのない方を拒んだりしないように、厚労省が通達を出したり、ガイドラインを作成したりしています。しかし地元の入院支援の話を伺う限りは「これで身寄りがなくても安心して入院できる」と言う状態にはなっておらず、まだ時間がかかりそうです。
それでは今、身寄り問題に直面している人は一体どうしたらいいのか?身元保証会社に頼るという手もありますが、これには料金が必要で、経済的に余裕がない人は利用が難しそうです。
そこでやどかりサポートでは利用者間で「つながるあんしん事業」という事業を立ち上げました。
この事業の参加者は「つながるファイル」という、身寄りがなくても困らずに生きてい
ターミナルケアや、死後事務をどうして欲しいかをあらかじめ決めてつながるファイルに書いておき、信頼できる人に託しておくことで、身寄りがなくとも安心して入院したり、最後を迎えることができるようになればと思っています。
この事業を2021年に開始してから2年、参加者でお亡くなりになった方はまだいらっしゃいません。そのためこのファイルの実効性はまだ我々にも分かりません。
しかし身寄りがない人の存在がまだスタンダードではない状況の中では、家族ではないコミュニティを形成し、いざという時に備えあうことが、重要になるのは間違いないと思います。